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from Germany, 旅が好き、本が好き。

◎旅の一冊◎『ミーナの行進』小川洋子~スペイン、マヨルカ島~

私にとって旅行というものは、計画を立て準備をして実際に旅をして、帰って来て荷解きをしてお土産を渡して話して…と、全ての工程が魅力的です。

特に荷物の準備に関しては、重量や容量と相談しつつ自分で厳選して“旅セット”が出来上がっていく楽しみがあります。

例えば服や靴も、ストーリーを膨らませて「あの場所でこの服を着ていたい!」「パリにはやっぱりこの靴で!」と考えるだけでワクワクします。

はじめは「できるだけ荷物は少なく軽く…」と思っているのに、優先順位において“ストーリー性”“ただの願望”が“機能性”や“利便性”を上回る瞬間があります。

この瞬間が、私にとって旅スイッチが本格的に入る時なんだな、と最近分かってきました。

さて、スペイン、マヨルカ島へ持って行った本はこちら。

小川洋子 (著)

小川洋子さんの、『ミーナの行進』です。

小川洋子さんといえば思い浮かぶのは『博士の愛した数式』。
2004年第一回本屋大賞を受賞した作品です。

寺尾聡さん、深津絵里さんのキャストで映画化もされましたね。

話題作だったので読みましたが、当時は人生経験も浅く、小川作品の素晴らしさを味わうには未熟だったような気がします。

ここ数年、小川洋子さんがまた気になり始め色々読んでいますが、まず驚くのが日本語の美しさです。

今ドイツにいるのでよけいに言語について考えることが増えましたが、自分の母語がこんなにも美しいものなのか、と日本語の心地良さに溺れています。

そして、穏やかな文体に惑わされそうになりますが、内容自体は“大人のおとぎ話”といった雰囲気を持つものも多く、静謐で残酷な美しさを感じます。

のんびりとロッキングチェアでページをめくっていたはずが、いつの間にか真っ暗な部屋に一人立たされて、後ろには何者かの気配が…というような緊張感。

その全てを美しい日本語が包み込み、何とも言えない味わいや満足感や中毒性をもたらすのです。

そんな印象の小川洋子さんですが、『ミーナの行進』を選んだ理由は単純でした。

物語の舞台が、私の故郷である関西圏と今住んでいるドイツ、の二つだったこと。ただそれだけです。

自分に関係のある場所が出てくる物語を、旅先で読むというものなかなかおもしろいな、と思って選びました。

マヨルカ島の日差しは故郷ともドイツとも違って、目の前に広がる海も見たことのない青ですが、本の中では見慣れた地元の海岸が登場したり。

ああきっとあの辺りだろうな、と思い描けるくらい身近だった街で展開される物語は、しかしちっとも身近ではなく、時代設定のせいだけではなくどこか現実味がない。

やっぱりどことなく、“おとぎ話”のような不安定さがあるのです。

けれど、そこに生きる人々は限りなく生命力にあふれていて、かっこ悪さも狡さも持った、まぎれもない人間たち。

色彩も、温度も、匂いも、ありありと浮かんでくる。

浮かんでくるというよりは、間違いなく存在するその空間に、私が入り込んでいる感覚。

帰りの飛行機で読み終わりパタンと本を閉じた時、この不思議な家族たちの世界から出なければならないことを、本当に寂しく思いました。

出てくる人の誰もが同じ熱量で描かれていて、この人の人生は1行目から最終ページまで、じゃないんだと思わせてくれる。

私がこの本を読む前から生きていて、本棚にしまわれた今も、それぞれの人生が続いているんだと、それが人というものなんだと、静かにそして深く、感じ入る。

きっとまた、あのちょっと変わった、ちょっと不器用な、きれいなだけではない愛情が交錯するお屋敷に、私は遊びに行きたくなることでしょう。

 

↓“大人のおとぎ話”感を心置きなく味わうなら、『刺繍する少女』もおススメです。

小川洋子 (著)

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